favicon 麦芽の糖化(マッシング)

ビールの「素」となる麦汁をつくる麦芽の糖化(マッシング)です。ビアトレではオールグレイン(穀物麦芽100%)でのフルマッシングでビールをつくることをおすすめしています。もちろん、モルトエクストラクトを使用したビールでも美味しいビールをつくることができますが、モルトエクストラクトでは表現することのできない、独特のモルトフレーバーを醸成したり、コクのあるフルボディビールをオールグレインではつくることが可能になります。 モルトエクストラクトでつくったビールと、フルマッシングでつくったビールは全くと言っていいほどビールの出来栄えが違います。また、異なる麦芽や様々な焙煎度合いの麦芽をブレンドしたりすることにより、自分だけの味や色をもったスペシャルビールをつくることができるのです。一見難しそうに見えますし、モルトエクストラクトでのビールづくりでは出てこない工程ですが、ビールづくりの基礎となる工程ですので、ぜひ実践してみてください。 マッシングの役割は大きく分けて2つです。

  1. タンパク質をイーストの栄養分であるアミノ酸に分解する酵素を活性化する
  2. でんぷんをイーストが発酵可能な糖に分解する酵素を活性化する

タンパク質分解酵素については後述しますが、マッシングとは麦芽の酵素(アミラーゼ)を働かせ、でんぷんを発酵可能な糖に分解する工程ととらえていいと思います。発酵に使える糖に分解する温度は、65℃〜68℃ですのでよく覚えておきましょう。これより高い温度になるとデキストリン(発酵可能でない糖)を多く含む麦汁になる傾向があります。デキストリンは糖分の一種ですが、イーストに分解されませんので、ビールになったときに甘みやコクが残る傾向があります。ですので、ビールに甘みやコクを残したい場合には、あえて若干高めの温度で糖化させることもあります。ただし、70℃以上になるとでんぶんの糖化が抑制されてしまいますので、注意が必要です。逆に温度が低いと、よりイーストに分解される糖ができやすい傾向にありますが、60℃以下になると糖化されませんので、温度は必ず確認するようにしましょう。麦芽に含まれる酵素の種類や働きについてより詳しいことは、「麦芽」を参照してください。

favicon 糖度について

麦汁に含まれる糖分の量を測る方法として、比重計を使用します。比重計は特定の温度の水の重さを1.000とした場合、対象となる液体の重さが水と比べてどれくらい重いか/軽いかを数値で表します。麦汁の糖分が多くなればなるほど比重は重くなりますので、麦汁の糖化の度合いを測ることができます。ビールづくりでは、以下の比重が重要となります。

  • 初期比重(OG: Original gravity):ビールが発酵する前(マッシング時)の、麦汁の比重を指します。数値は「1.056」のように表します。
  • 最終比重(FG:Final gravity):ビールの発酵が終わった時の比重を指します。初期比重と最終比重の差から、発酵により糖からアルコールへの変化量を測ることができますので、アルコール度数を計算することができます。

favicon 比重計の使い方

メスシリンダーに麦汁を入れ、その中に比重計を挿入します。そのままマッシュタンに入れてもいいですが、最終比重を測るときにはメスシリンダーが必要になりますので、用意しておきましょう。目盛りの見方は理科の実験で習ったとおり、比重計を横から見て、液面の位置が読み取る目盛りです。比重計にひっついている液体の位置ではありません。また、比重は温度によって上下しますので、補正をする必要があります。計算式もありますが、面倒ですのでこちらで数値を補正すると簡単です。英語のページですが、以下のスクリーンショットを参考に数値を入力してください。

比重調整ショット

また、比重計には比重以外にも、糖度や潜在アルコール濃度の目盛りもありますが、無視して構いません。

favicon マッシングの方法

それでは、早速マッシングの方法を見ていきましょう。マッシングの方法は大きく分けて4つあります。

 

  1. シングル・インフュージョン・マッシング(定温マッシング)
  2. ステップ・インフージョン・マッシング
  3. デコクション・マッシング
  4. BIAB (Brew in a Bag)

ビアトレではインフュージョン・マッシングとステップマッシングを紹介します。デコクション・マッシングについては少し複雑で、現在ではヨーロッパ以外ではあまり使われていませんので、簡単な説明に留めます。また、厳密にいうとマッシングの方法ではありませんが、BIABによるマッシングも紹介しています。では順番に見ていきましょう。

favicon1.シングル・インフュージョン・マッシング(単温マッシング)

とてもシンプルで分かりやすいマッシング方法です。単温マッシングと言われているように、一定の温度でのマッシングしかしませんので、温度調整が簡単です。粉砕した麦芽を65℃〜68℃の温水で糖化するだけです。クーラーボックスや、加熱が難しいマッシュタンを使用するときにとられる方法です。また、使用する麦芽は麦芽製造業者によってモディフィケーションが完了されている麦芽を使用します。モディフィケーションが完了している麦芽とは、製造工程で麦を発芽させることにより、タンパク質をイーストの栄養分であるアミノ酸に転換済みの麦芽を指します。ただし、ホームブルワー用に市場に出回っている麦芽は、ほとんどモディフィケーションが済んでいますので、気にする必要はあまりありません。モディフィケーションが済んでいない麦芽を使用するときには、ステップマッシングで後述するプロテインレストを行い、タンパク質をアミノ酸に分解する工程が必要となります。

方法

マッシュタンに用意する水の温度は、麦芽の量と水の量、麦芽の温度によって変わりますが、一般的には、目安として、目標とする温度(65℃〜68℃)の5℃〜8℃ほど高い温水を用意しておきます。この温水に粉砕麦芽を投入(マッシュイン)すると、目標とする温度、つまり糖化に最適な温度まで下がります。水の量は、麦芽の重量やマッシュタンの大きさ、つくりたいビールの量により異なります。ビアトレでは最終的に5ガロン(19ℓ)のビールをつくることを前提として説明しています。例えば、5ガロンのビールをつくるにあたり、4500gの麦芽使用量を想定してみましょう。一般的に麦芽1000gに対して、水4ℓあれば十分です。つまりこの時のマッシュタンの水の量は18ℓとなります。ここで勘違いしやすいのが、19ℓのビールをつくるのに18ℓの水では足りないではないか、ということです。麦芽も水を吸収しますので、とても足りませんね。でも心配いりません。この後の「抽出・ろ過」の工程でスパージングを行い、水の量を調整します。また、マッシングの水の量は、こうでなければいけないという決まりもありませんので、神経質になる必要もありません。ただし、麦芽の量に対して水が少なければ十分に糖化できませんし、多過ぎればマッシュタンからあふれてしまいますのでご注意を。ではサンプルレシピを参考にしてマッシングをしてみましょう。

  1. マッシングの水:20ℓ、70℃をマッシュタンに用意する
  2. 全ての麦芽を投入する
  3. ダマにならないように、よくかき混ぜる
  4. 温度が65℃〜68℃になっていることを確認する
  5. 約30分置いた後、比重を測る (初期比重:1.059)※温度補正をしてください
  6. 初期比重の値になっていれば、インフージョン・マッシングのステップは終了です。

favicon2.ステップ・インフュージョン・マッシング

単温でマッシングするシングル・インフュージョン・マッシングとは違い、温度によって変る酵素の働きに合わせて、麦汁の温度を調整する方法です。加熱をすることができるマッシュタンを使用するときに取られる方法で、モディフィケーションが完了していない麦芽を使用する時には、ステップマッシングでマッシングするようにしましょう。加熱ができないクーラーボックス等をマッシュタンとして使用する場合でも、ステップごとに熱湯を加えることで温度調節をすることも可能ですが大きめのマッシュタンを用意する必要があります。加える熱湯の量を計算式で求めることができますが、面倒ですのでこちらで計算することができます(スクリーンショット参照)。また、もしモディフィケーションが完了している麦芽を使用する場合でも、麦芽の酵素の働きを止める「マッシュアウト」ができますので、ステップマッシングがおすすめです。ステップマッシングでは、ブルーワーにより様々な温度を設定されているようですが、一般的に以下の温度でとりあえずは問題ないと思います。

プロテイン・レスト

粉砕麦芽を温度50℃の温水に投入し、10分~20分ほど置きます。ここでは麦芽の液状化を促進しますので、よくかき混ぜましょう。約50℃の温水で、麦芽のタンパク質をイーストの栄養分となるアミノ酸に分解する酵素が活性化しますので、麦汁のアミノ酸化が進みます。これをプロテイン・レストと呼びます。先述の完全にモディフィケーションされていない状態の麦芽を使用する際には、かならずプロテイン・レストをするようにしましょう。もしモディフィケーションが済んでいる麦芽を使用する時でも、モディフィケーションが済んでいない麦芽が含まれていても安心ですし、麦芽中の残留タンパク質を多く分解することで、よりクリアなビールに仕上がりますので、プロテイン・レストはいつでも行うことをおすすめします。

糖化

プロテイン・レストが済んだら、糖化を促す温度(65℃~68℃)まで、マッシュを加熱します。マッシュタンの底部を火で加熱するので、マッシュタン底部だけが温度が上がってしまい、マッシュ上部は温度は上がりづらい傾向があります(お風呂のように温度の高い部分が上部に上がるのと違い、麦芽が温度の移動を邪魔します)。その為、こまめにバルブから麦汁を抜き、それを上から投入・攪拌するようにし、マッシュタンの温度が均一になるように気をつけましょう。温度が上がりすぎると、酵素の働きを止めてしまったり、イーストが分解できない糖(デキストリン)が多くできてしまう傾向がありますので、ビールのボディを敢えて高めようとしない限り、65℃~68℃内に納まるようにしましょう。あまり神経質になる必要もなく、70℃になっても冷めれば再び酵素が活性化するので問題ありません。マッシュ全体の温度が65℃~68℃になったら火を止め、30分~40分ほど置き、初期比重になるように糖化を促します。比重計を使用する場合には、マッシュの糖度が均一になるように、よくかき混ぜてから計るようにします。

マッシュアウト

麦汁が初期比重に達したら、再び火をかけて温度を77℃まで上昇させます。温度が77℃以上になると、麦芽の酵素が活動を止めますので、それ以上糖化が進まなくなります。もしマッシュアウトをしない場合には、糖化がすすみ糖度が上がってしまいますので、注意が必要です(その場合でもある程度の時間を経ると、酵素の働きは止まります)。マッシュアウトでも、マッシュタンの温度が均一になるように、よく混ぜるようにします。77℃になれば酵素の活動が止まりますので、それ以上の温度に上昇させる必要はありません。また温度が高くなりすぎると、タンニンの働きで渋みが出てしまいますので、必要以上に温度を上昇させないようにします。

【加える熱湯量の計算例】

加算熱湯量

favicon3.デコクション・マッシング

デコクション・マッシングは、ドイツの伝統的な糖化方法です。ステップマッシングでは、熱湯を足したり、加熱したりして温度調整をしましたが、この方法では、マッシュの一部を加熱可能な別のマッシュタンに移し、一旦沸騰させた後、その沸騰させたマッシュを再び元のマッシュタンに戻し温度を調整します。温度はステップマッシングの時と同様で構わないと思いますが、ブルーワーにより温度の調整はかなり異なるようです。この方法により、ステップマッシングと同様、温度によって変る酵素の働きに合わせて、麦汁の温度を調整することができます。加えて、マッシュを一旦沸騰させることにより、麦芽の風味が濃厚になります。沸騰させるためのマッシュの量などは、バッチサイズや設定温度により変わりますが、結構複雑になります。機会があればどこかで説明をしてみたいと思います。

favicon4.BIAB (Brew in a Bag)

マッシングの考え方自体は、上述の1.2.3どのマッシング方法でも使えるのですが、使用する道具が多少異なる方法です。ですので、温度の設定などは各項目を参照してください。BIABでは、読んで字のごとく、「バッグの中で醸造する方法」で、メッシュ状の大きなバッグを使用する方法です。温水の入ったマッシュタンにメッシュバッグを入れ、そのバッグの中に麦芽を投入します。この時ダマにならないようにかき混ぜながらゆっくり投入するようにします。投入したあとの温度管理や工程は他のマッシング方法と同様です。この方法の優れている点は、メッシュバッグがフィルターの代わりになっているので、マッシュタンに上げ底のパンチングフィルタなどの設備が必要ないこと、クーラーボックスでも、加熱可能なマッシュタンでも使用可能なことで、シングルでもステップ・インフュージョンでも、デコクションでも、どの方法でも使えること、そして加熱可能な鍋をマッシュタンとして使用してしまえば、メッシュバッグごと麦芽を取り出した後は、そのまま煮沸鍋として代用できることなどがあります。煮沸鍋はいずれにしても用意する必要があるので、この方法ではマッシュタンが必要ない、ということになります。バッグは複数回再利用可能ですが、ある程度の回数を使ったら、新しいものに変える必要があります。不利な点として、バッグをマッシュタンから引き上げる時、かなり重いので大変です。また、後述するスパージングの際に、別途ザルなどの道具が必要になります。

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