ビールづくりにおいてイーストの量はどれくらい必要なのか?これはブルワーによって考え方が結構異なるようです。イーストの量が少なすぎる場合には、発酵までに時間がかかるので汚染のリスクが高くなり、細胞分裂により生じるエステルやダイアセチルなどのオフフレーバーが多く発生したり、場合によっては発酵が止まってしまいます。逆に多すぎる場合には細胞分裂が少ないのでイーストフレーバーが強くなり、フルーティさがないサッパリした味になる傾向があります。

では適正な量はどれくらいなのでしょうか。様々な考え方があるなかで、ホームブルーイングとしておおむね適当と思われる量は、色々な情報を統合すると以下の数値となります。

ここで注意が必要なのは、未開封の新鮮なイーストを使用する場合、再利用したイーストを使用する場合とで、必要なイースト細胞数が違うと言う点です。

 

【未開封の新鮮なイーストを使用する場合】

比重1.055の麦汁1ℓに必要なイースト細胞数=約5b

※(b=billion=10億)

※上記はエールの場合で、ラガーの場合には倍量のイーストが必要

 

例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な未開封の新鮮なイースト細胞数は

20ℓ×5b=100b

 

【再利用イーストを使用する場合】

比重1.055の麦汁1ℓに必要なイースト細胞数=約10b

※(b=billion=10億)

※上記はエールの場合で、ラガーの場合には倍量のイーストが必要

例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な再利用イースト細胞数は

20ℓ×10b=200b

となります。

つまり、再利用イーストを使用するときは、未開封の新鮮なイーストを使用するときに比べ、倍量必要となります。また、未開封でも、新鮮なイーストと、使用推奨期限を過ぎたイーストでは必要な細胞数は異なり、再利用イーストでも、イースト洗浄の度合いによって変動します。

上記は比重1.055の場合を想定していますので、比重が低ければ必要な細胞数はさらに少なくなり、比重が高い場合には必要な細胞数は多くなります。ただし1.060以下の比重値であれば、上記の計算でほぼカバーできるのではないかと個人的には思います。厳密な計算については、以下のサイトで計算できます。

Yeast Pitch Rate and Starter Calculator

 

ここでの計算式によると、例えば比重1.065の麦汁20ℓに必要な細胞数は

239bであることが分かりますので、上記の基準より少し多めの細胞数が必要となります。

 

必要なイーストの細胞数については以上のようですが、イーストの細胞数はカウントすることができません。では実際にどのような基準でイーストを用意すればいいのでしょうか。こちらも、使用するイーストによって異なりますが、以下を基準とすればおおむね問題ありません。

  • 未開封のリキッドイースト

リキッドイーストで有名なWhite Labsのリキッドイーストは、1パッケージにつき75-150bの細胞数があるそうで、上記の必要細胞数を満たしています。比重1.070以下の麦汁19ℓであれば、スターターなしで使用できると説明書にも記載があります。その為、スターターなしで使用しても問題ありませんが、イーストの状態を確認する為にも、スターターを作成しておくことをおすすめします。

  • 未開封のドライイースト

ドライイーストには、1gあたり10bの細胞数があるそうです。通常のドライイーストは1パッケージにつき11.5gほどなので、10b×11.5g=115bとなります。こちらも上記の必要細胞数を満たしているので、比重1.070以下の麦汁19ℓであれば、そのまま使用して問題ありません。リハイドレーションして浸透しやすくしても良いですね。

  • 再利用のイースト

再利用イーストの細胞数を正確に知ることはとても困難です。再利用前に使用した比重、条件などによってもイーストのコンディションは変りますし、イーストの洗浄具合によっても細胞数が変わると考えられるからです。目視できるイーストケーキは全てがピュアなイーストではなく、その中にはタンパク質、タンニン、ホップカス、脂肪酸などが含まれている可能性があり、一概に細胞数を特定することができません。しかし、きちんと洗浄されたイーストであれば、1mlあたり2-3bの細胞数があると見てよいでしょう。

例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な再利用イースト細胞数は20ℓ×10b=200bでしたが、この時に必要なイーストケーキの量は

200b÷3b/ml=約67ml

ということになります。もしイーストケーキの量が足りない場合には、スターターを作って細胞数を増やしておく必要があります。もちろん、必要なイーストケーキの量があって、前回の使用時から2週間以内である場合には直接投入しても構いませんが、イーストの汚染状況の確認や、活動を促す為にも、スターターは用意することをおすすめします。

スターターの量については、イーストケーキの量により変りますが、高比重の発酵をする場合を除いて、1ℓ(900ml)ほどあれば良いかと思います。正確な量を計算したい場合には、以下のサイトのPart2で計算できます。

Yeast Pitch Rate and Starter Calculator

 

例えば、200bの細胞数が必要な時に、イーストケーキが40ml(120b)であれば、不足分は80bです。スターターの比重を1.040で攪拌器を使わないで振るだけにする場合、700mlのスターターが必要になります。しっかりイースト洗浄したとしても、おそらく40ml前後のイーストケーキは確保できると思いますし、比重が増減したとしてもやはり1ℓのスターターを用意しておくのがリーズナブルな量かと思います。