イントロダクションでは、ビールづくりの基本原則のようなものを説明します。ポイントは次の3項目だけです。とても基本的なことであり、当然なことでもあり、そしてとても簡単です。拍子抜けするほど簡単です。しかし今後ホームブルーイングをすすめる上で非常に大切なことなので、しっかりと理解し、常に実施するように心がけましょう。ただし、あまり神経質になる必要もありません。ポイントを押さえればそれでOKです!
いきなりホームブルーイングと無関係そうな見出しですが、これからホームブルーイングを行う上で、記録は必ずつけるようにしてください。ちなみに、ビールを一回つくる工程のまとまりを、「バッチ(Batch)」と呼びます。例えば、これからつくる人生で初めてのビールづくりは、1回目のバッチとなります。つまり、記録は毎バッチごとにつけることになります。
記録をつける目的は、一言で言うと「上手くいったバッチ、上手くいかなかったバッチを後から見返して反省し、次のバッチにつなげる為」です。ビールは言うまでもなく生ものであり、時に生き物であり、作った後はビール自体をじっくり眺めてみてもどのようにつくられたのかが分かり辛い液体です(もちろん分析は可能ですが)。上手くいったビールの記録がなければ、再度同じようなお気に入りのビールを作ろうと思っても頼りは記憶だけですので、細かいところまでは再現することは難しいのです。特に失敗した時ほど、どこで失敗したのかを追跡・特定することは、次に同じ失敗をしない上でとても重要な要素になります。後で誰かに失敗した原因を尋ねても、その時の状況が分からなければアドバイスしようもないのです。ですのでどのような方法でもいいので、必ず記録をつけるようにしてください。
記録媒体は何でも構いません。ノートに直接記録しても、写真付きのブログに記録しても、映像にしても良いので、記録として残しておいて、後で見返すことができ、再現性があれば完璧です。僕はEvernoteやBeerSmithを使用して記録を残すようにしています。BeerSmithはどこかで紹介すると思いますが、ホームブルワーの為に開発されたソフトウエア(英語版)で、レシピ作成から工程管理、記録管理まですることが可能です。有料ですので余裕があれば使ってみても良いと思いますが、最初はEvernoteなどの、内容がブランクな状態の媒体を使って、自分で考えながら記録つけるようにしたほうが色々な気付きがあり勉強になります。エクセルなどの表作成ソフトを使ってみても面白いかもしれません。記録はレシピの内容については最低限つけてほしいのですが、それ以外にも気付いた点、反省点、次回に活かせる点、写真や動画を記録するとなお良いと思います。
ビールづくりと料理は非常に似ています。料理であれば、レシピの確認、材料の調達、調理道具の確認、下ごしらえ、計量、煮込みなど実際の調理、味付け、盛り付け、後片付けなどの工程があるでしょうか。実はビールづくりもほとんど料理と同じような工程で進みます。特に発酵前までの過程については料理をするような感覚に非常に近いと考えて頂いて結構です。
実際の工程については後述しますが、ここでは事前準備、料理でいうところの、レシピの確認、材料の調達、調理道具の確認、下ごしらえ辺りに該当するものです。なんだ、当たり前じゃん。と思うかもしれませんが、料理をする方なら賛同してもらえると思うのですが、この事前準備がきちんとできていると、実際の調理がとてもはかどります。逆に事前準備を怠った結果、料理ができないという事態も十分起こり得ます。醤油や塩などを買い忘れて調理を始めると料理になりませんよね。醤油くらいであればコンビニに走れば済む話かもしれません。しかしビールづくりとなると若干事情が異なります。ビールづくりに不可欠な、麦芽やホップなどはコンビニで見つけることは難しいでしょう。
ビールづくりにおいて事前準備を怠ったり、必須な材料、道具などが無い状態が発生すると、その日のビールづくりは諦めるほかありません。そのような事のないよう、しっかり事前準備をして楽しみながらビールをつくりましょう。前回自分でつくったビール片手にビールづくり、なんて楽しいことができるのも、事前準備があってこそです。
A.レシピの確認
必要な材料(麦芽やモルトエクストラクト、ホップ、イーストなど)は揃っているか、必ず確認しましょう。また、レシピを見て工程を実際にイメージして、かかる時間や無理がないか確認しましょう。
B.道具の確認
ビールづくりに必要な道具がそろっているか確認しましょう。こちらもレシピを見ながら必要な道具をきちんとイメージしておきましょう。後述する「洗浄と消毒」もしっかり確認してください。以外と忘れがちですが、洗浄と消毒に使用する洗剤などもきちんと用意しておいてください。
C.イーストの培養
イーストを使用するにあたり、事前にイーストを培養をしておきましょう。使用するイーストの種類やビールの量により、イースト培養が必要ない場合もあります。その場合でも、発酵させる週の気候条件や、発酵温度管理の設備の有無などを勘案して、イーストがきちんと働ける環境かどうかを確認するようにしましょう。特に、イースト培養が必要ないと思われるイーストの種類(ドライイーストを除く)やビールの量であったとしても、適度な温度管理を保てない環境が想定される場合には、イースト培養をしておいたほうがいいこともあります。また、イースト培養が必要ない場合でも、イースト培養しておいた方がよりビールの発酵を促す為、失敗する確率も低くなります。詳しくは「イースト(酵母)」で説明しますが、ビールづくりにおいてとても重要な、というよりビールづくりの成否を分けるのはイースト次第と考えて間違いありません。イースト培養には通常、2日ほど必要ですので、ビールをつくる日から逆算して用意しておく必要があります。
ビールづくりにおいて、非常に重要なこと。それは使用する道具などの洗浄と消毒です。ビール工場見学に行くとよく分かりますが、工場内はとてもきれいにされていますよね。もちろん不衛生な環境でつくられたビールは飲みたくないものです。しかし、それ以上に清潔にしている理由があります。それは、ビールづくりに必須なイースト(酵母)は、汚れや細菌に非常に汚染されやすい生き物だからです。
イーストは、麦芽から糖化された糖分と酸素を栄養にして、アルコールと二酸化炭素を生み出しビールをつくります。このイーストが例え汚染されていたとしても、この活動はするのですが、汚染された状態のイーストは細菌の種類によって様々な化学変化を起こし、ビールの味に影響を与えます(ランビックビールなど、敢えて細菌を利用する場合もあります)。もともとビールづくりに使われるイーストは、ビールのテイストに適したものが使われるのですが、このテイストも汚染されずに健康な状態で活動した結果生じるものなのです。その為、イーストに触れるすべての道具、原料は洗浄・消毒されている必要があります。
原料については煮沸殺菌してある状況では問題ありませんが、原料やイーストに触れるすべての道具はきれいな状態を保つ必要があります。詳細は「洗浄と消毒」で説明しますので、しっかり確認しておきましょう。ただし、極端に神経質になる必要はありません。いくつかのポイントがありますので、しっかり押さえておけば大丈夫。また、殺菌して完璧に細菌をなくす事はホームブルーイングではほどんど不可能ですし、空気中の細菌もありますので、無視できる程度の細菌はどうしても残ってしまいますが、あまり問題とはなりません。