イーストの再利用方法
一度使ったイーストでも、汚染されていないなどの条件が整えば、複数回にわたって再利用することが可能です。その為にはイースト洗浄を行い、ホップカスやデッドイースト、アルコールなどを取り除き、純粋なイーストを収穫する必要があります。そのイースト洗浄方法を紹介したいと思います。
【用意するもの】
1ℓ程度のガラス容器(フタ付)×1
500ml程度のガラス容器(フタ付)×2
※洗浄する量や、収穫したい量により、ガラス容器のサイズは適宜変更してくさい。
【手順】
■イースト洗浄1日前
1.全てのガラス容器とフタを煮沸消毒(最低15分)する
(もし煮沸に必要な大きな鍋がない場合には、キッチン漂白剤等で消毒してもOKですが、水道水が残らないように留意してください)
2.煮沸した湯がガラス瓶に入っている状態で、ガラス容器を取り出す(火傷に注意)
(キッチン漂白剤を使用する場合は、別途煮沸水を容易してガラス容器に入れる)
3.フタをして荒熱をとった後、冷蔵庫に保管しておく
■イースト洗浄日(ボトル詰めする日、又は2段階発酵容器に移す日)
1.発酵容器からサイフォンでビールをボトリング容器、又は2段階酵容器に移す
2.発酵容器の底にたまっているトゥルーブ(オリ)を残し、残ったビールを捨てる
3.1ℓのガラス容器に入っている水を発酵容器に入れ、よく振ってかき混ぜる
4.よく混ぜたら、その液体を1ℓのガラス容器に移し、フタをする
5.常温で30分ほど置く
30分ほど置くと、写真のように3つの層が確認できます。使用するのは真中の白濁した液体のみです。その他はホップカスやタンニン、デッドイーストなどなので使用しません。
6.一番上の層の液体を捨てる
7.500mlのガラス瓶の水を捨て、その中に真中の層の液体のみを入れてフタをする(一番下の層が入らないように注意)
8.冷蔵庫で1時間ほど置く
1時間ほど置くと、再度3つの層が確認できます。使用するのは、1回目と同様に真中の液体のみです。
9.残りの500mlのガラス瓶の水を捨て、その中に真中の層の液体のみを入れてフタをする
10.冷蔵庫で2日ほどおくと完了です
ガラス瓶の底にあるのが再利用するイーストで、上澄みの液体は捨てて使用します。前回の使用から2週間以内の再利用イーストで十分な量を確保できているのであれば、スタータを作らずにそのままダイレクトに麦汁に加えても良いですが、汚染などをチェックする為にもスタータの作成をおすすめします。投入するときには、イーストケーキは固まっていて発酵容器やスタータに入れることが難しいので、消毒したスプーンなどですくうか、麦汁を入れてかき混ぜてあげてあげればOKです。
必要なイーストの量はどれくらいか?
ビールづくりにおいてイーストの量はどれくらい必要なのか?これはブルワーによって考え方が結構異なるようです。イーストの量が少なすぎる場合には、発酵までに時間がかかるので汚染のリスクが高くなり、細胞分裂により生じるエステルやダイアセチルなどのオフフレーバーが多く発生したり、場合によっては発酵が止まってしまいます。逆に多すぎる場合には細胞分裂が少ないのでイーストフレーバーが強くなり、フルーティさがないサッパリした味になる傾向があります。
では適正な量はどれくらいなのでしょうか。様々な考え方があるなかで、ホームブルーイングとしておおむね適当と思われる量は、色々な情報を統合すると以下の数値となります。
ここで注意が必要なのは、未開封の新鮮なイーストを使用する場合、再利用したイーストを使用する場合とで、必要なイースト細胞数が違うと言う点です。
【未開封の新鮮なイーストを使用する場合】
比重1.055の麦汁1ℓに必要なイースト細胞数=約5b
※(b=billion=10億)
※上記はエールの場合で、ラガーの場合には倍量のイーストが必要
例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な未開封の新鮮なイースト細胞数は
20ℓ×5b=100b
【再利用イーストを使用する場合】
比重1.055の麦汁1ℓに必要なイースト細胞数=約10b
※(b=billion=10億)
※上記はエールの場合で、ラガーの場合には倍量のイーストが必要
例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な再利用イースト細胞数は
20ℓ×10b=200b
となります。
つまり、再利用イーストを使用するときは、未開封の新鮮なイーストを使用するときに比べ、倍量必要となります。また、未開封でも、新鮮なイーストと、使用推奨期限を過ぎたイーストでは必要な細胞数は異なり、再利用イーストでも、イースト洗浄の度合いによって変動します。
上記は比重1.055の場合を想定していますので、比重が低ければ必要な細胞数はさらに少なくなり、比重が高い場合には必要な細胞数は多くなります。ただし1.060以下の比重値であれば、上記の計算でほぼカバーできるのではないかと個人的には思います。厳密な計算については、以下のサイトで計算できます。
Yeast Pitch Rate and Starter Calculator
ここでの計算式によると、例えば比重1.065の麦汁20ℓに必要な細胞数は
239bであることが分かりますので、上記の基準より少し多めの細胞数が必要となります。
必要なイーストの細胞数については以上のようですが、イーストの細胞数はカウントすることができません。では実際にどのような基準でイーストを用意すればいいのでしょうか。こちらも、使用するイーストによって異なりますが、以下を基準とすればおおむね問題ありません。
- 未開封のリキッドイースト
リキッドイーストで有名なWhite Labsのリキッドイーストは、1パッケージにつき75-150bの細胞数があるそうで、上記の必要細胞数を満たしています。比重1.070以下の麦汁19ℓであれば、スターターなしで使用できると説明書にも記載があります。その為、スターターなしで使用しても問題ありませんが、イーストの状態を確認する為にも、スターターを作成しておくことをおすすめします。
- 未開封のドライイースト
ドライイーストには、1gあたり10bの細胞数があるそうです。通常のドライイーストは1パッケージにつき11.5gほどなので、10b×11.5g=115bとなります。こちらも上記の必要細胞数を満たしているので、比重1.070以下の麦汁19ℓであれば、そのまま使用して問題ありません。リハイドレーションして浸透しやすくしても良いですね。
- 再利用のイースト
再利用イーストの細胞数を正確に知ることはとても困難です。再利用前に使用した比重、条件などによってもイーストのコンディションは変りますし、イーストの洗浄具合によっても細胞数が変わると考えられるからです。目視できるイーストケーキは全てがピュアなイーストではなく、その中にはタンパク質、タンニン、ホップカス、脂肪酸などが含まれている可能性があり、一概に細胞数を特定することができません。しかし、きちんと洗浄されたイーストであれば、1mlあたり2-3bの細胞数があると見てよいでしょう。
例えば、比重1.055の麦汁20ℓに必要な再利用イースト細胞数は20ℓ×10b=200bでしたが、この時に必要なイーストケーキの量は
200b÷3b/ml=約67ml
ということになります。もしイーストケーキの量が足りない場合には、スターターを作って細胞数を増やしておく必要があります。もちろん、必要なイーストケーキの量があって、前回の使用時から2週間以内である場合には直接投入しても構いませんが、イーストの汚染状況の確認や、活動を促す為にも、スターターは用意することをおすすめします。
スターターの量については、イーストケーキの量により変りますが、高比重の発酵をする場合を除いて、1ℓ(900ml)ほどあれば良いかと思います。正確な量を計算したい場合には、以下のサイトのPart2で計算できます。
Yeast Pitch Rate and Starter Calculator
例えば、200bの細胞数が必要な時に、イーストケーキが40ml(120b)であれば、不足分は80bです。スターターの比重を1.040で攪拌器を使わないで振るだけにする場合、700mlのスターターが必要になります。しっかりイースト洗浄したとしても、おそらく40ml前後のイーストケーキは確保できると思いますし、比重が増減したとしてもやはり1ℓのスターターを用意しておくのがリーズナブルな量かと思います。
クリアなビールをつくるコツ
クリアで澄んだビールが濁ったビールより美味いというわけではありません。ただ、多くのホームブルワーにとってクリアなビールをつくることは、よりプロフェッショナルばビールに一歩近づけた気分にさせるのも事実です。また、イメージ通りのビールに仕上げる為に、ビールの濁り具合もコントロールすることができるのは、ホームブルワーにとって技術の一つとも考えられます。
ここでは味の良し悪しは一旦置いておいて、どうすればクリアなビールをつくることが出来るかに焦点を当ててみたいと思います。
クリアなビールをつくるには、まずビールの濁りの原因を考えてみる必要があります。濁りの原因は主に、タンパク質、タンニン(ポリフェノール)、イーストの3つです。その他にもありますが、主にこの3つを押さえておけば大丈夫です。タンパク質は麦芽や小麦などから、タンニンは麦芽の殻から由来するもので、ビールを冷やすと白濁するチルヘイズとよばれる現象を引き起こします。イーストはイースト自体が濁りの原因です。この3つの要素をコントロールしてクリアなビールを目指します。
1.プロテインレストを実施する
約50℃の温水で、麦芽のタンパク質をイーストの栄養分となるアミノ酸に分解する酵素を活性化させることでタンパク質を分解させる、マッシング初期工程です。基本的にはモディフィケーションが済んでいる麦芽にはプロテインレストは必要ありませんが、いつも実施するようにしています。
2.タンパク質の少ない材料を選ぶ
たんぱく質の多い材料としては、主にウィート(小麦)や、ダークカラーの麦芽です。これらを必要以上に多くつかうとタンパク質が多くなりますので、濁りの原因となります。ウィートビールやダークビールをつくる際には濁りは関係ありませんので気にする必要はないですね。
3.アイリッシュモスを使用する
アイリッシュモスは海藻由来のゼラチン質で、煮込み終了30分前に投入することで、冷却時にタンパク質とタンニンをすばやく沈殿させる働きがあります。その他タブレット型のWhirlflocなどもありますが、こちらは煮込み終了5分前の投入でOKです。
4.麦汁の冷却を出来る限りすばやく行う
麦汁を冷却する際に、チラーを使用してすばやく冷却することで、タンパク質とタンニンの沈殿を促進させます。15分ほどで冷却できると理想的です。冬場は水が冷たいので有利ですね。アイリッシュモスとの併用でさらに効果を発揮します。
5.完成したビールを冷暗所に保存する
ボトル詰め後に、常温で貯蔵して炭酸ガスをしっかりとビールに溶け込ませた後は、冷暗所(冷蔵庫)などで冷やしておくことによりイーストを沈殿させます。これによりイーストの濁りを低減できますが、振らないようご注意を。
6.フロキュレーションの高いイーストを使用する
フロキュレーションとは、イースト発酵において凝集の程度を表し、高いフロキュレーションのイーストは、より早く凝集して発酵容器の底に溜まるようになります。その分、イーストの濁りがはやく軽減されるのでその分クリアになります。ただし、フロキュレーションが高ければ高いほど、すぐに凝集して活動を止めてしまうので、発酵度が低い傾向があり、高比重のビールで使用すると残留糖分が多くなりがちです。代表的なのはEnglish yeastです。
7.ファイニング剤(清澄剤)を使用する
代表的なのは、粉末ゼラチンです。煮沸消毒した水に溶かして発酵完了の数日前に投入することで、タンパク質とタンニンを沈殿させます。ただし、上記の方法でも十分クリアなビールをつくることができるので、ここまでする必要があるかは疑問です。(実はやったことありません。。。)
ファーストウォートホッピング(FWH)のすすめ
ビールづくりにおいて重要な要素となるホップ。そしてこのホップの苦味、風味、香味を引出す方法として、大きく分けると以下のようになる。
- 煮込み時に投入し、煮込む時間によって苦味、風味、香味を引出す方法(Boil)
- 煮込み完了時に投入し、香味を引出す方法(Flameout)
- 発酵が一段落してから投入し、香味を引出す方法(Dry Hop)
- スパージング時に投入し、複雑でまろやかな苦味、風味、香味を引出す方法(First Wort Hopping: FWH)
上記1~3の方法については、とてもポピュラーでよく使われる方法であるが、有効な方法なのに日本ではあまり馴染みのない4のファーストウォートホップ(FWH)について考えてみたい。
First Wort Hopping (FWH)は、最初(First)の麦汁(Wort)の段階でホップを漬け込む(Hopping)ことを言います。麦汁を煮沸する前からホップを入れておくことで、麦汁とホップが接触する時間を長く取ることができます。ホップのアロマオイルは不溶性であり、水に溶け込みづらい性質をもっており、さらに揮発性なので、煮沸すると揮発してしまいます。FWHでは、ホップと麦汁の接触する時間を長くとることでホップを酸化させ、アロマオイルを溶け込ませるテクニックです。
FWHをすることで、複雑でまろやかな苦味、風味、香味を引出すことが可能で、ブラインドテストなどでもFWHでつくったビールのほうが高評価であった事例もあるそう。
元々は、苦味をさらに促進させる方法として採用されていたようですが、近年ではまろやかでスムースな苦味、風味、香味のバランスを引き出す為に使われています。
ただし、FWHで投入したホップは、長時間煮込むことになるので、その分ビールが苦くなります(IBUが10%ほど上昇します)。その為、FWHで使用するホップは、α酸の値が低い種類のものを使うようにします。α酸値が高いホップでFWHをすると、シャープできつい苦味となる傾向がありますので、注意が必要です(敢えてそうしたい場合は別ですが)。
FWHで使用するホップの種類や分量は様々ですが、風味付けと香味付け用ホップの30%ほどをFWHで使用すると効果的です。色々と配合を変えて試してみるのも楽しそうです。人によっては香味付け用のホップのみをFWHで使用して特長を出す場合もあるようです。
もしまだFWHを試したことがない方は、是非トライしてみてください。いつもと違ったビールがつくれると思いますよ。
イーストスターター(培養)の作成方法
リキッドイーストを使用する際に用意する、イーストスターター(500ml)の作成方法です。19ℓの麦汁の発酵に必要なスターターの量は条件にもよりますが、経験上500mlあればほとんど問題ありません。ただし、再利用のイーストを使用する場合には、1Lのスターターを用意しましょう(分量は通常の2倍でOKです)。スターターは、仕込み日の2日前に用意しておきます。用意するものは以下の通り。
- 三角フラスコ(容量1,000ml程度)又はガラス瓶
- 手鍋(専用のものを用意したい)
- アルミホイル
- ドライモルトエクストラクト(DME):ライトタイプ
- リキッドイースト(常温にしておきます)
- 消毒用アルコール、じょうご、キッチン用漂白剤
スターターで注意するのは、やはり汚染を防ぐ為に洗浄と除菌をしっかりすることです。イーストが汚染されてしまうと、ビールづくりが全て台無しになるので、少し神経をつかう作業となります。ただし、ポイントを押さえれば問題ありませんのでご安心を。
1.三角フラスコの洗浄と除菌
(A)適量で薄めたキッチン用漂白剤を満たし、水ですすぐ
(B)水を入れたフラスコを火にかけて煮沸消毒
どちらでも良いのですが、(B)だと突沸する恐れがあり危険ですし、洗浄と消毒が確実にできる(A)がお勧めです。ただし、(A)はしっかりと水ですすいだとしても、水に含まれる雑菌を取り除くことが出来ない為、しっかりと乾燥させてからアルコールなどで消毒するか、一旦沸騰させた水ですすぐ必要があります。
2.ドライモルトエクストラクト(DME)の煮沸
手鍋にDME60g(DMEはホームブルーイング専門店で購入できます)、水450mlを入れ、15分沸騰させます。吹きこぼれやすいので、火加減の調節に注意します。では、上記1のフラスコの消毒と2を一緒にできないのでしょうか。実はできるのですが、フラスコでDME を沸騰させると、どれだけ弱火でも吹きこぼれがひどいのです。このため別々にしているのですが、吹きこぼれを防ぐことができるのであれば、一緒にしてしまって問題ありませんし、効率的です。
3.DMEの冷却
洗浄・消毒したフラスコに、煮沸し終わったDMEを入れます。洗浄・消毒したじょうごを使うと便利です。熱いので火傷には十分注意します。さらに、アルコールなどで消毒したアルミホイルでフラスコの口を塞いだ後、水やアイスバスで常温になるまで冷却します。
4.リキッドイーストの投入
DMEが常温になったら、同じく常温にしておいたリキッドイーストを投入します。リキッドイーストは軽く振って混ぜておくと良いでしょう。リキッドイーストを投入したら、消毒したアルミホイルで口を塞ぎ、フラスコを回転させるように振って、DMEとイーストをよく混ぜます。また、リキッドイーストが入っていた容器の匂いを嗅いでおいてください。この匂いが汚染されていない状態のイーストの匂いです。スターターが成功していれば同じ匂いがしますが、もし汚染されていれば酸味がかった違う匂いがします。
5.常温保存と攪拌
イーストの活動には酸素と温度が重要です。温度は20度前後の温かい場所においておきます。真夏は涼しい倍所に、冬場は温かい部屋、電気マットなどを使用して温度が冷えすぎず、温かくなりすぎないように注意します。あとは、気がついたときには必ずフラスコを振って、よく攪拌してください。そのまま置いておいてもイーストは活動しますが、攪拌することでより培養が進みます。少し高価ですが、余裕があれば攪拌器を利用すると、より効果的です。
6.イーストスターターの状況確認
イーストが活動しているかどうかは、目視で確認できます。スターターを作成してから、12時間~16時間ほどすると、スターターが発酵を初めて泡が確認できるようになります。また、フラスコの口に耳をかざすと、イーストが活動している音も確認できます(シュワシュワ言います)。この時、イーストはDMEをアルコールと炭酸ガスを作り出しながら、増殖していきます。炭酸ガスは、アルミホイルを通して外に排出されますので、完全に封をしないようにしてください。
もし24時間たっても活動が確認できない場合には、使用したリキッドイーストが死滅していることを覚悟しましょう(寒いときにはもう少し発酵までに時間がかかります)。もし問題なくイーストの活動が確認できたら、次は汚染状況の確認です。リキッドイーストをフラスコに投入したときに、イースト容器の汚染されていないイーストの匂いを確認していたと思います。もしスターターの匂いが、汚染されていない状態の匂いと違う、酸味がかったような匂いがすれば、汚染が疑われます。エールイーストなのに、ベルギーイーストのような匂いがする場合には、ほぼ汚染されていると思って間違いありません。匂いでの判断は最初は分かりづらいのですが、何度かつくっているうちに分かるようになりますので、地道に嗅覚を磨いてください。
パブの雰囲気とクラフトビール
今でこそクラフトビールや様々な種類のビールを飲ませてくれるお店は増えてきたが、少し前までは種類の豊富なビールが飲みたい時はパブ、つまりアイリッシュパブやブリティッシュパブなどで海外のビールを楽しむ事が一般的でした。それでも飲めるビールと言えば、ギネスやキルケニー、バスやボディントン、少し珍しくてもヒューガルデンなどで、今のクラフトビールを飲ませる店に比べると種類は少なく、国内外の多くのビールが飲めるようになったのは本当に喜ばしいことです。
その代わり従来型のパブは衰退傾向にあり、昔から馴染んだ雰囲気のあるパブがどんどん姿を消していくのを見るのは、やはり少し寂しい。パブ独特の雰囲気や、賑やかにビールを飲むスタイルが好きなので、是非頑張ってほしいと思います。
一方でクラフトビールを飲ませてくれるお店には、この辺りの「場」としての空気感が従来のパブとは少し異なり、洗練された感じでしんねりむっつりワイングラスなどでお上品に評論家よろしく飲んでいるお店が多い気がして、ガヤガヤしている雰囲気が好きな者にとっては少し残念な気もしています。もちろん個性的な「場」の雰囲気をもつ大好きなクラフトビールを飲ませる店もあるので一概には言えないが、日本では少し独特な方向に向かっているようで、これはこれで一つのスタイルとして確立していくのかもしれない。楽しみ方は人それぞれなので別にいいのだが、コーヒーのテイスティングのように「ジュッ」と吸い込み、口をもぐもぐさせて飲んでいる人を見かけたときは、さすがに少しゾッとしてしまった。
従来型のパブがクラフトビールに対して距離を置いているように見えるのは、スペースや設備だけの問題ではくこの辺りにもあるような気がしてならない。
どのようなスタイルにせよ、クラフトビールが短期的なブームでなく地に足の着いたものとなる事を祈りたいが、この辺りも日本は独特で、クラフトビールはあくまで飲んで楽しむものであって、つくって楽しむものでないところに少し地盤の弱さを感じてしまう。海外でクラフトビールが良く飲まれているいているところでは、必ずその前段階で、ホームブルーイングがしっかりと根付いている。そしてホームブルーイングに飽き足らず、自分のビールを世に出したい情熱から、ブルーパブなどをオープンさせることがほとんどです。そしてそのようにして市場に出たクラフトビールへのリスペクトから、ホームブルーイングでそのビールのクローンをつくって楽しむのも、クラフトビールの楽しみ方のひとつなのです。
タイのホームブルーイング事情
タイのバンコクに来たついでに、タイのクラフトビール、ホームブルーイングについて調べてみました。数年前にバンコクに来た時は、クラフトビールと言えば有名な「Tawandang Brewhouse」や「Londoner Brew Pub」などのブルーパブがあるくらいでしたた。しかも「Londoner Brew Pub」に立ち寄ったら店がない。クローズしてしまったのかと残念に思いましたが、別の場所で2016年にオープンするそうです。
クラフトビールを出すお店では、「Craft」や「HOBS」などのお店が人気のようです。「Craft」に至っては40タップもあります。ただし、客のほとんどは「ファラン」と呼ばれる欧米人ばかり。それもそのはず、クラフトビール1杯の価格はパイントで約300THBで、日本円にして約900円。バンコク市内のアイリッシュパブでも120THB前後なので、その倍以上です。しかもアイリッシュパブの値段でも地元タイ人は利用しません。300THBもあれば、美味しいタイ料理食べて一杯飲んで、モーターサイ(バイクタクシー)で家に帰っておつりがきます。タイ人の友人に聞いても、クラフトビールはタイ人には馴染みがないようで、もっぱら在留外国人や旅行者向けのようです。(値段を見て固まっていました。。。)
では、タイのホームブルーイングはどうでしょうか。まず法律的には違法となるようです。蒸留酒の醸造には特に厳しく、5000THB(15,000円)以下の罰金、または/及び6ヶ月以下の禁固刑。販売に至っては、10,000THB(30,000円)以下の罰金、または/及び1年以下の禁固刑です。ただし、蒸留酒ではなく、ビールやワインの醸造については、最低200THB(約600円)の罰金、醸造したビールやワインの販売については、最低5000THB(約15,000円)の罰金です。つまりビールのホームブルーイングについては、それほど厳しくないようにも見えますが、「最低」200THBの罰金なので、その裁量については分かりませんし、正しい情報かどうかは微妙ですので、タイでホームブルーイングをする場合には、きちんと確認しましょう。
ネットでは、ホームブルーイングの道具や原料を販売するタイ語のサイトがいくつかありますので、それなりに楽しんでいる人はいるようです。ただ金額はタイの物価からすると高いように思えます(ビールの税金は日本などに比べて安いので、ビール買った方がはるかに安い。。。)ので、ある程度の収入があるタイ人か、外国人が楽しんでいるようです。ちなみに友人のタイ人はホームブルーイングをタイで楽しんでいる人なんかいるのか?と懐疑的です。第一、水どうすんだ?と言っているくらいなので、どうなんでしょうか。。。
イーストの培養
リキッドイーストや、使いまわしのイーストを使用するときには、イーストを培養し、麦汁の発酵に十分なイーストの細胞数を確保し、イーストの働きが活発な状態にしておくと、発酵がスムーズに進みます。一般的に、19ℓの麦汁を発酵させようとするときには、500mlのイーストスターター(イーストの培養とアクティビティを高めておく)を用意しておくと良いでしょう。
もちろん麦汁の比重やイーストの種類、状態により変動はあるが、初期比重1.070以下であれば、500mlのスターターで経験上問題ないよう。また、White Labsのリキッドイーストを使用を例にとると、新鮮(記載されている使用奨励期限前)で、健康な状態のイーストであれば、スターターを作ることなく直接麦汁に投入しても問題ないそうです。これは、White Labsの説明書にも書かれており、もし新鮮で健康な状態が担保できるのであれば、汚染する可能性がかなり低くなる為、有力な選択肢の一つですね。
しかしながら、いくら使用奨励期限前で新鮮に思われるイーストであっても、その健康状態を目視することができないので、リスクも生じます。もし運搬状態の問題などでイーストが死滅してしまっている時には、発酵が進まず、その麦汁とはさよならする可能性が高いです。早めに気付いて、新たなイーストを投入して発酵を確認すれば、その麦汁は助かるかもしれないが、汚染のリスクも覚悟する必要があります。
そのような状態を防ぐ為にも、どんなに新鮮なイーストを使用するときでも、必ずスターターを用意するようにしています。スターターを用意しておけば、スターターの段階でイーストがきちんと活動するかどうかを確認することができるので、上記のリスクを排除し、麦汁を無駄にすることもないです。(これまで散々無駄にしてきてきたので。。。)
また、スターターを用意しておくことで、イーストの働きが活発な状態になるので、麦汁に投入してから発酵を始めるまでに時間がかからず、適切な発酵を進めることができます。特に、2週間以上活動していない使いまわしのイーストを使用するときなどは、必ずスターターを用意するようにしたいところ。これは、イーストの働きを活発にするためだけでなく、使いまわしのイーストは、発酵に必要な細胞数に足りないことが多いことや、汚染されている可能性があるので、必ず用意しておきたいです。
完璧に汚染を防いで準備した麦汁でつくったビールが失敗する原因は、発酵に必要なイーストの細胞数が確保できないこと、イーストが健康で活発でないこと、イースト自体が汚染されていること。この3つがほとんどの原因であることを頭に入れておくことが、とても大事です。イーストの培養方法は、後日。
IPAとの出会い
最初にIPAに出会ったのは、出張で訪れたNYでした。ショッピングと仕事を兼ねてBrooklyn界隈へ出かけており、たまたまBrooklyn Breweryを発見。Brooklyn Breweryでは、当時毎週金曜日にだけTasting Roomを工場内で開放していました(現在では土日も開放している模様)。そしてこの日はたまたま金曜日。他の日はスケジュールが入っていたので、この日にBrooklynを訪れることができたのはかなりラッキーでした。当時のTasting Roomでは、出来立てのビール6種類を1パイント$3で飲むことができました。
Brooklyn Breweryのビールといえば、ブルックリンラガーが有名で、マンハッタンのパブに行けば必ず置いてあるほどでしたが、日本ではまだまだマイナーな存在。しかもラガー以外を見ることは全くありませんでした。そんな中訪れた米国のクラフトビールを牽引してきたBrooklyn Breweryの工場。Tasting Roomといっても、部屋があるわけでもなく、工場の空きスペースにテープルを置いてあるだけ。醸造タンクを目の前にしながらビールを飲むことができる開放的な場所でした。
ラガー以外は飲んだことがなかったので、とりあえず6種類全てのビールに挑んだが、とりわけ強烈な印象でパンチを食らわせられたビール。それがIPAでした。正直に告白すると、今でこそ自らをHop Head(ホップがガッツリ効いたビールの愛飲者)と思っていますが、この時に飲んだたった一杯のIPA(正確に言うと少し残しました。。。)で、一日中頭がクラクラしてしまいました。
もちろん他の種類も飲んだのですが、他は味見程度にし、IPAをメインに飲んでいました。IPAは総じてアルコール度数が高くなる傾向があり、この時のIPAも度数は高めだったと記憶していますが、それでもたった一杯(残しましたが)で撃沈。当時はビールなら何杯でもいける性質だったので、なおさら衝撃を受けました。
特に味。とにかく苦い。頭が痛くなるほど苦い。嫌がらせではないかと思うほど苦い。そして香り。飲む前に鼻から入る香りで苦さが分かる香り。そして飲んでから分かるホップ独特の香り、そして麦芽の味を吹き飛ばしてしまうほどのホップの味。第一印象ははっきり言ってかなり悪い。二度と飲むかと思った。それがIPAとの最初の出会いでした。
それから数年。IPAを飲むたびに好きになり、つくるビールもIPAが多い。最初の出会いが悪く、飲むたびに美味さが分かる感じは、人生最初に飲んだビールのあの苦さを思い出す。特にIPAの味と素晴らしさを徹底的に教えてくれたのは、Sierra Nevada の「Torpedo Extra IPA」。日本でも、たまにビアフェスでも見かけるようになったのは嬉しいかぎりです。このビールを飲むと、間違いなく面白い夢をみます。もしかしたらこの感じがIPA好きにさせているのかもしれません。